2020年11月に公開され、アニメファンやかつて子ども時代に魔法少女アニメに心を躍らせた世代の間で大きな話題となった劇場版アニメ『魔女見習いをさがして』。1999年から2005年にかけて放映された大人気シリーズ『おジャ魔女どれみ』の20周年記念作品として制作された本作は、これまでのシリーズの常識を覆す大胆なアプローチと、現代を生きる大人たちのリアルな葛藤を描き出すことで高い評価を獲得しました。
本記事では、毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した本作の魅力や制作背景を解説します。どれみ達をあえて主人公にせず大人の女性を描いた理由、徹底的なリサーチに基づく現代社会のリアルな描写、そして佐藤順一監督や関弘美プロデューサーをはじめとするスタッフのこだわりを深く紐解いていきます。
『魔女見習いをさがして』の基本情報と制作陣のこだわり

『魔女見習いをさがして』は、『おジャ魔女どれみ』シリーズの20周年を記念して2020年11月13日に劇場公開されたアニメーション映画です。監督は鎌谷悠と佐藤順一が務め、脚本はシリーズおなじみの栗山緑が担当しました。さらにプロデューサーの関弘美をはじめ、当時のTVシリーズを支えたメインスタッフの多くが集結し、20周年という節目にふさわしい本格的な制作体制が敷かれました。
当時のスタッフたちは『おジャ魔女どれみ』のTVシリーズ開始当時、30代から40代でした。小学生を主人公にした魔法少女モノを制作するにあたって、メインターゲットである3歳から8歳の子供を徹底的にリサーチし、6人に1人が片親の家庭という厳しい現実を知って作品に反映させた歴史があります(妹尾あいこのエピソードなどがその代表例です)。本作でもこの制作の原点に立ち返り、成人女性をターゲットにする上で現代の一般的な20代の女性がどのような日常を送っているのかを徹底的にリサーチして挑んでいます。
どれみ達を主人公にせず「大人の女性」を描いた理由
本作の最も大きな特徴は、『おジャ魔女どれみ』の映画であるにもかかわらず、春風どれみなどのメインキャラクターが主人公ではない点です。物語は、子供の頃に同シリーズを見て育った年齢の異なる3人の女性——22歳の教員志望の大学生・長瀬ソラ、27歳の会社員・吉月ミレ、20歳のフリーター・川谷レイカが、シリーズをきっかけに旅先で出会い、大人になって見失ってしまった大切なものを探していくという筋書きになっています。
この構成を採用した理由について、プロデューサーの関弘美はインタビューで「どれみちゃんたちはみんな同い年なので、その子たちが大人になってからの話だとみんな同い歳の状態になってしまう。しかし視聴者の年齢に幅があるので、『おジャ魔女』を観てくださっていたすべての方に届けるためには、同じ歳の人ばかり出しちゃダメだと思った」と語っています。また、脚本の栗山緑も当初は成人したどれみ達を主人公とするプロットを考えていたものの、「どれみファンには響くが一般の観客には興味を持たれない」と考え、新しい3人の主人公を設定することで、彼女たちを通じて改めて「どれみ」の世界に触れてもらうアプローチを選択しました。映画のタイトルにあえて「おジャ魔女どれみ」という名前を入れなかったのも、映画を観終わった人々に「これこそどれみの映画だ」と思ってもらいたいという強いこだわりによるものです。
徹底的なリサーチが生んだ現代社会のリアルな描写
テレビ放映が始まった1999年に8歳だった人は、映画公開時でおよそ28、29歳。最後の年である2003年に3歳だった人は19、20歳という世代の広がりを踏まえ、観客それぞれが自身の世代を投影できるよう、ソラ、ミレ、レイカという年齢差のある3人の主人公が設計されました。リサーチにあたっては社内だけでも100名の協力を得、一般社会の女性に対する調査結果も脚本の栗山に共有されました。
その結果として、1999年と比較して大学生の半数が奨学金を利用するようになるなど、経済状況の悪化や所得格差の拡大といった現代社会のシビアな現実がキャラクターたちのバックグラウンドにしっかりと反映されています。魔法が存在する虚構の世界を描く『おジャ魔女』だからこそ、現実の社会問題に対しては可能な限り事実として正面から向き合う姿勢が貫かれました。
| 主人公キャラクター | 年齢・職業 | 設定・背景のポイント |
|---|---|---|
| 長瀬ソラ | 22歳(教員志望の大学生) | 将来への不安や進路に悩む、等身大の大学生。 |
| 吉月ミレ | 27歳(会社員) | 仕事に邁進する中で人間関係やキャリアの壁に直面する。 |
| 川谷レイカ | 20歳(フリーター) | 家庭環境の複雑さや経済的なプレッシャーを抱える。 |
美術・音楽・演出に込められたスタッフの挑戦
ビジュアル面や音楽面においても、大人の観客を唸らせる数々の工夫が凝らされています。佐藤順一監督によれば、TVシリーズでは「明るい、可愛い」背景ではなく世界に深みを与えるために「重めのトーン」の色使いが意識されていました。本作でも暗すぎず明るすぎずを意識しつつ、さらにシビアなストーリー展開に合わせて美術はむしろ少し明るくなるよう鎌谷悠監督が要請したといいます。
また、美術班は絵のような背景とリアリズムのバランスを慎重に調整し、現実の世界とどれみ達がいる架空の世界の区別を明確にするための作画を行いました。加えて、『おジャ魔女どれみ』と本作の双方に登場する「たんぽぽ」や「綿毛」のモチーフは、シリーズ以前に佐藤、栗山、関の3人が手掛けた『夢のクレヨン王国』が綿毛のシーンで終わったことにちなんで取り入れられた演出であり、長年タッグを組んできた制作陣ならではの遊び心と絆が息づいています。劇中歌としてもMAHO堂と子供たちによる「おジャ魔女カーニバル!!(+子供たち Version)」が使用され、ファンの心を強く揺さぶりました。
【魔女見習いをさがして】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:『おジャ魔女どれみ』をリアルタイムで見ていなくても楽しめますか?
A1:はい、十分楽しめます。本作の主人公は当時アニメを見ていた大人たちであり、彼女たちが大人としての壁にぶつかりながら絆を深めていく物語のため、過去のシリーズを知らなくても一人のドラマ作品として共感できる構成になっています。
Q2:どれみ達メインキャラクターは作中にまったく登場しないのですか?
A2:どれみ達は主人公ではありませんが、物語の鍵を握る重要な存在や映像として登場します。シリーズのファンが思わず嬉しくなるようなオマージュや仕掛けが随所に散りばめられています。
Q3:第75回毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞した理由はどこにありますか?
A3:子供向けアニメの枠を超え、現代を生きる20代女性のリアルな悩みや経済的背景、成長を妥協のないリサーチと緻密なアニメーション表現で描ききった点が、高い評価を受けました。
まとめ:今後の動向と作品から受け継がれるメッセージ
劇場版アニメ『魔女見習いをさがして』は、かつて魔法少女に憧れた子どもたちが大人になり、現実の壁に直面しながらも「大切なもの」を再発見していく姿を描いた傑作です。安易な過去の思い出の消費に頼らず、徹底的なリサーチに基づく現代社会のリアルと真摯に向き合った制作陣の姿勢は、多くの観客の心に深く刻まれました。
大人になるにつれて見失いがちな情熱や仲間との絆を思い出し、一歩を踏み出す勇気を与えてくれる本作は、時間が経っても色褪せない普遍的な魅力を持っています。当時のファンはもちろん、日々の生活に悩みや立ち止まりを感じているすべての大人たちにこそ、じっくりと味わってほしい作品です。